演じること舞うことそして語ること(藤村志保さんのお話) 演劇のページに戻る

( 2001.6.17)

 くらしき作陽大学の公開講座「百人百話」(6月16日)に俳優の藤村志保さんが講師としてお出でになった。

 講義の前にはミニコンサートがある。オカリナとマリンバとピアノのアンサンブルだった。藤村さんも一番前の席で聞いておられた。ちょうど藤村さんの後ろあたりに席を取っていたので後ろ姿を拝見できた。体を左右に揺らせてリズムをとりながら楽しく聞いておられたようにお見受けした。着物をお召しになっておられ,よくわからないが紺地の縮緬のようで染めがすりの模様があった。帯の柄は夏らしく紫とピンクの「ツユクサ」が描かれたものだった。

 藤村さんの講演が始まった。講演台はなく小さなイスがあるだけ。マイクはピンマイクで,その発信機は帯のお太鼓の中に納められていた。後で納得したのだが,藤村さんは講堂の舞台を左右前後に動き,映画のこと芝居のこと舞のことをからだ全体を使って話されるために演台を使わなかったのだと。演台があるとむしろじゃまなのである。
藤村志保という芸名の言われ,映画でデビューしたこと,映画の作り方などを,これらを舞を舞うような所作をいれてしなやかに話された。

 映画が一番好きだと言っておられた。この年になると好きな人と共演したいとも言われた。ところがなぜか最近の作品は痴呆役が多いとか。演出者から「藤村さん,ふだんどおりにやってもらえればいいんですよ」といわれ,複雑な気持ちになったとおもしろくおっしゃっていた。

 映画や芝居の仕事ばかりではない。重いテーマの「脳死問題」にも深い関心をお持ちのようだ。また地唄舞を武原はんという名手に20年間師事され,こちらでも有名である。

 俳優としての長いご経験から発せられる言葉はどれも実感のこもったものばかりであった。
 「人間は正気と狂気の二面性を誰もが持ち合わせている」「演じる俳優は最終的には自分の生き方を問われる。それはどんな仕事をしていても現れてくるものだ」「毎日が修行だと思う。どんな小さいことでも喜びを見つけることが大事だなと近頃思う」

 藤村さんと共演した人や尊敬されている人の紹介もあった。
まず,市川雷,勝新太郎,緒方 拳,中村茄津雄,仲代達矢など各共演者とのエピソードも交え,これからの活動のご予定も紹介された。

 最後には,朗読のことが話題となり,源氏物語や樋口一葉の作品を読んでおられるとのことである。私たちには時間をオーバーしてまでも,樋口一葉の『十三夜』のお関が父親に諭されて泣く泣く婚家先へ戻っていくくだりを朗読してくださった。もっともっと聞きたかった。
1時間40分という時間があっという間に終わった今回の講義であった。
       (2001.6.17)