小沢昭一さんに倉敷での公演最終日の開演前にお話を伺った。
―「唐来参和」を引退興行として始められて,16年におなりになるとか・・・
小沢―彼のへそ曲がりのところに,とても共感し,いくらやってもおもしろいです。
 元来あきっぽいんですが,この芝居だけはあきずに毎年どこかでやってます。
 もう隠居のつもりなんですがね。近所で碁を指す感覚です。
 井上ひさしさんの芝居は随所に工夫が凝らされていて,大変好きです。
 「唐来参和」も,はじめのうちは高校生を相手にやったこともあるんですよ。ミッションスクールで「売春,吉原・・」とかやって,生徒も先生もびっくりしたと思います。井上さんのふるさとでもある仙台ですし,なにかキリスト教に関するものだと思ったのでしょうが。
 今の高校生は態度が悪く,足を投げ出したり,居眠りをしているわで,ワイワイガヤガヤの連中をいかにねじ伏せて,本題を聞かせるかというのも楽しみになってきます。最初はピッチャーマウンドよりかなり後方から投げていき,だんだんと正規の位置から投げて,びしっと決めてやろうというわけです。
 倉敷の観客はおとなしいですね。もっといい加減でいいと思いますよ。それぞれの観客でリトマス試験紙のように反応がわかります。

―前口上で郭の用語などをパネル付きで説明していただけるので,本題がわかりやすいです。
小沢―文字で示せば,わかりがいいと思いまして。ブレヒトなんかが盛んにやったんですよ。

― 公演の合間にはあちこちを見られますか。
小沢―外を歩くのは好きなんですが,今は舞台を終えるともうぼろ雑巾をたたきつけたようにくたくたになりますので,次の舞台のために体を養うのが精一杯であまり出歩かなくなりました。それでも鶴形山の阿知神社ですかね,行きました。

― 映画「カンゾー先生」にご出演しておられますね。
小沢―いい映画がまたできましたね。今村監督はどんな役の人でも多重にとらえてそれをうまく表現していますね。
大きな役をいただいたんですが,日程がとれなくて断らざるを得ませんでした。唐十郎がなった坊主役なんですよ。それがだめなら映写技師の親父さんの役をといわれたのですが,これもできなくて。
 それでも,あの方の映画には顔を出しておかなくてはと思い,ちょっと出ています。

―「唐来参和」は小説でも一度読んだことがあるのですが花街の様子がわからなくなっている現在,わかりやすい解説もかねての前口上(これも楽しませていただく芝居のうちと思いますが)が私たちにとってはとてもありがたいです。
私は昭和30年頃はちょうど小学生で,玉島の花街天満町の近くにすんでいますが,なにをするところかなあと思っていました。私より若い者には特に小沢さんのご説明はありがたく,より芝居がおもしろいのではないかと思います。
 てぬぐいのかぶり方ひとつで細見屋になったり,お信ばあさんになったりできるんですね。
 私の家内は,年表が書かれたついたてから,小沢さんがちょこんと顔を出し,のぞき見するような仕草から舞台にお出になられたのが,いちばん印象的だったと言っています。
小沢―そうですか。のぞき見の趣味がありますから。

―最近の著作『むかし噺うきよ噺』を拝見したのですが,大変なつかしい場面が出てきました。私は戦後の生まれですが,やまがらの芸や鋳掛け屋の仕事も見た記憶があります。懺悔の噺も笑いました。私も父親と一緒に風呂に入っていたとき,風呂の中に浮かべたそうで,親父さんは少しもあわてずそれをすくって,後に入るものには何も言わなかったそうです。私が生まれて1歳にもなっていなかったときのことのようです。
小沢―同じような経験をしたのですね(笑)。

―ご本にお書きになっていた良寛についてですが,玉島には良寛が若い頃修行したお寺「円通寺」があります。良寛さんは托鉢以外は町に出られなかったと聞きますので,おそらく花街天満町は知っておられなかったのでしょう。
小沢―私の母方が良寛さんに血縁があるんですよ。

―「唐来参和」の演出は小沢さんもなさっているのですか。
小沢―ほとんどは私がするのですが,肝心なところは演出家の方と相談します。
 この間も,歳を言うせりふで「にじゅうななさい」とそれまでは言っていたのですが,江戸時代は「にじゅうしちさい」だろうということで,そのように改めました。

―次のお芝居をお考えですか。
小沢―考えないわけではないのですが。
 「芭蕉通夜船」をデュークエイセスとでやったらどうかと思い,井上さんに話したら,「いいですねえ,書き直しましょう」と言われましたので,やめました(笑)。

―ラジオ番組「小沢昭一的こころ」はもうやっていないんですか。
小沢―いえやってますよ。山陽放送が流さなくなったんですよ。何かのかたちで要望を出してください(http://www.tbs.co.jp/954/ozawa/で聞くことができます)。

―俳句も作られてますね。
小沢―好きです。公演中は俳句を作るからだになっていないのかできません。もっぱら自宅の風呂で作ります。
 俳句はぼけ防止にいいですね。俳優はぼけが大敵です。せりふを覚えなくてはなりませんから,ぼけないことが生存の必須条件です。

(本当にお疲れのところをありがとうございました。小沢さんにはいつまでもお元気で引退興行をなさってください。)
平成10年9月5日午後0時45分〜1時15分
倉敷芸文館楽屋に於いて
                  

演劇のページに戻る