山下惣一さんと小関智弘さ
 このお二人も私が尊敬崇拝している方々だ。そのお二人が対談したことがあるとは知らなかった。昨年12月,NHKのラジオ深夜便のサンデートーク「IT情報革命は何をもたらすか−町工場と田んぼの現場から」に出演されたらしい。残念ながら聞いていない。そのことを知ったのは小関智弘選『手仕事を見つけたぼくら』(小学館文庫)の選者のことばからである。

 山下さんは佐賀県でずっと農業をしながら作家として活躍されており,小説はもとより国の農業政策にも鋭い意見を述べてこられた。小説『減反神社』は直木賞候補となり,新田次郎さんと野坂昭如さんが絶賛されていたのを覚えている。この人の著作が出るとまず読みたいと思う。小説『ひこばえの歌』『にぎやかな大地』は農家が抱える様々な問題となつかしい風景が余すところなく描かれている。山下さんは山形県で毎年開校される井上ひさしさん主宰の「生活者大学校」の教頭を務めておられ,井上さんとは農業問題で多くの意見を交わされていると思っていたが,小関さんとは結びつかなかった。そのお二人がNHKの深夜番組でそれぞれの立場で「仕事」について,多くのことが話し合われたことであろうと想像する。

 小関さんを知ることとなったのは,くらしき作陽大学の公開講座「百人百話」を受講し,そのときの講師だったことからである。有名な方なので私が知らなかっただけである。小関さんは町工場(まちこうば)で旋盤を使いながら,その視点から町工場の風景や人間模様を活写したものを多く書かれている。この方も直木賞候補にノミネートされた。『町工場世界を超える技術報告』『粋な旋盤工』『町工場スーパーなものづくり』などで,ものづくりに生きる人々の様子がよくわかる。

 公開講座での印象はおだやかな語り口で「最終的にものを作りあげるのは人の手である」とおっしゃり,里庄町にある安田工業は「世界のヤスダ」なのだということも小関さんによって知るところとなった。ヤスダのキサゲ仕上げ(手作業による研磨)の精度はあのF1の名門フェラーリもうなったという。国内の自動車メーカーが自社の工作機械を自慢する場合も「この機械はヤスダです」というそうである。
 小関さんご自身も自著で言われているが,汎用旋盤からNC(数値制御)旋盤に移るときはかなり逡巡されたという。それでも最終的に旋盤のバイトを工作物にあてて切削するのは人の手(頭)なのだと,操作するための数値を人が並べて行うのだと,そのように思われて吹っ切れたともおっしゃっていた。今も人と手仕事をテーマに著作や講演を精力的になさっておられる。

 井上ひさし,山下惣一,小関智弘が私の中で結びついたことがとてもうれしい。
(2001,2,23)

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